昼の山手線 (第三話) [山手線シリーズ]
水曜日、朝8時10分。山手線(内回り)の車内。
通勤ラッシュ。それなりに混んでいる。
閉まりかけたドアから20代の OL さんが駆け込んできた。
クリーム色のハンドバッグと薄い水色の小さなポシェットを持っている。
プシュー。
ドアが閉まったとき、 「あっ」 と かわいらしい声が聞こえた。
何だろうと見ると...
ポシェット君がドアに挟まれている。それも紐だけ車内、本体はドアの外。
挟まれたのは紐だけで、ドアはちゃんと閉まり、そのまま電車は代々木駅を出発。
あーあーあー、走り出しちゃったよ。もうだめだぁ。
ドアの外では、ポシェット君が風にあおられ、バタバタしている。
まるで、「ご主人様、助けてー」 と言っている様に。
OL さんが、紐を グイ っと引く。
ドアの外側にぴったり引き寄せられたポシェット君は、ほとんど揺れなくなった。
だけど、決して中に入ってくることはないよね。
代々木駅で閉まった、この左側のドア、次は田町まで開かないんだ。
山手線一周 34.5km 1時間ちょっと。
代々木—田町 間は、山手線の ほぼ3分の1周。
この OLさん が、田町とか浜松町とかに通っている人ならいいのだけれど、と思いつつ僕は渋谷で降りた。
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